進化心理学

恋愛で役に立つ進化心理学

恋愛に使える進化論

なぜ人は会話をしたり、恋に落ちたりするのでしょうか?

その理由は進化にあるのです。進化を通して人の特性を理解すれば、恋愛でも日常生活でも役に立ちます。

動物番組で踊りや鳴き声で求愛したり、オス同士がメスを巡って争ったりするシーンを観たことありませんか?

ヒトだって猿から進化してきた動物ですから、恋愛というのは一種のつがいを作るための行動(=メイティング mating,直訳すると交尾)とも言えます。

そして、他の動物と同じようにそのつがいを作る求愛行動も同じように何か法則のようなものがあるはずなのです。一方で人間も他の動物も思っているより複雑な営みを持ち、弱肉強食のような単純な世界観ではありません。

進化論は誤解が多い分野で、誤った勝手な解釈だとロクなことになりません。まずは基礎知識をじっくり理解しましょう。

生物の進化

私達含めて多くの動物は目を持っていますがこれは進化の産物です。目があるのは地球には光があって明るさがある環境だからです。そのおかげで目で見て危険を察知できます。

しかし、これは環境に適応しようという意図があって目ができたわけではないのです。遺伝子や進化が目的や意図や合理性を持っていません。あくまで目を持った生き物たちが生き残った結果なのです。

これを自然淘汰または自然選択といいます。ある性質を持った個体が生き残って、その性質が強化されていきます。たとえば、キリンは木の高いところにある葉を食べるから首が長いのですが、これは長い年月をかけて首の長い個体が生き残ってきた結果なのです。

ヒトの心

目や心臓といった器官は進化の産物です。

では、ヒトの心はどうでしょうか?

ヒトの心や行動は脳で作られ、脳だって目のような他の器官と同じく進化の産物であるはずです。

ヒトの脳は、ヒト以前の類人猿の脳から進化して大きくなったのです。猿にだって脳はありますから、欲求や情動などの根本的な性質は引き継いでます。ヒトは猿に比べてはるかに複雑で抽象的な思考ができ、それで高度な文明を築いていますが、いまだに猿に近い部分が基盤としてあるという認識を持つことが重要です。

ヒトが進化の過程で適応してきた環境のことを「EEA(Environment for the Evolutionary Adaptation、進化的適応環境)」と言います。ヒトは地球上に広く分布していて、暑い、寒い、海辺や山岳など生息環境は様々です。そんな多様な環境でも共通の5つの性質が抽出可能です。

  1. 高栄養な獲得が難しい食べ物に特化していた
  2. 食料確保や生活のために道具を駆使していた
  3. 集団内で協力して生きていた
  4. 非血縁者も含めて様々な人たちで子育てしていた
  5. 言語などを用いて非常に高度な知識を共有・伝達できた

この狩猟と採取をしていた時代のEEA下で獲得した性質はおそらくほぼ変わっていません。いっぽうで産業革命以降のここ100年足らずで生活スタイルや文明は著しく変わりました。

人間の性質は変わってないのに、生活が変わりすぎてしまったミスマッチが生きづらさやうつなど現代病の原因になってるのではないかと言われています。

性淘汰

自然淘汰のうち、異性をめぐる闘いによって起こる進化を性淘汰、または性選択と言います。

たとえば、クジャクのオスはメスへのアピールのためにきれいで立派な尾羽を持ってます。いっぽうメスは尾羽がなく地味です。

これはメスが尾羽が立派なオスを選ぶという性淘汰が働いた結果です。

しかし、この尾羽は目立つので捕食者に見つかりやすく、逃げるには邪魔ですよね。

どうしてこのような生存に不利な進化をするのでしょうか?

これは捕食者に狙われ生存しにくくなるからこそ、より丈夫で健康的なオスだとメスにアピールできるからだと考えられています。

これをコストリー・シグナリング理論またはハンディキャップ原理と言います。ハンディキャップが多いほど、オスの質の高さを正直にアピールできるのです。これは後々重要な概念になるので覚えておいてください。

さて、性淘汰にも以下の3つ種類があります。

同性間競争

主にオス同士で異性を巡って争うことです。儀礼ディスプレイ(どちらが格上かアピール)から始まって、威嚇、小競り合い、時には死に至るまで激しく戦います。

配偶者選択

異性間淘汰、異性による選り好みとも言います。つがい相手を選ぶことを「選好」と呼び、通常はメスがオスを選びます。

種(環境)によっては性役割が逆転しているケースもあります。たとえばヒレアシシギはメスがオスに対して求愛行動して、雄が抱卵、育雛します。一妻多夫制です。

雌雄間の利害対立

つがいになった配偶者以外の異性と交尾することをつがい外交尾と言います。

トリはつがい外交尾の割合は約70%と広く見られる行動です。しかし、これはトリがみだらな動物という意味ではないです。単に子孫を増やすための適応行動なだけです。

ヒトには近い概念として浮気がありますが、これも今日の文明社会では不貞行為とされます。原始時代では適応行動だとしても、それは文明社会で善悪とはまったく関係ありません。

自然である」ことが「善である」ことを決定しません。これを「自然主義的誤謬」と言います。

「浮気は広く動物に見られるから浮気するのは当然だ、浮気してもいいのだ」は間違いです。

「浮気は原始時代では適応行動だったかもしれないが、今日では幸福度を下げる不貞行為と捉えられている。では、浮気しない人と付き合ったり、浮気を防止するにはどうしたらよいのだろうか?」は問題ありません。

ヒトの性淘汰

ヒトの場合は双方向的に性淘汰がかかっています。そして、遺伝子解析などの結果からヒトも他の動物と同じく男性がより強く性淘汰が働いてると考えられています。

ただし、他の生物と比べて複雑な社会を持ち、女性が男性を選ぶ権利が制限されるケースが多かったのです。たとえば親が結婚を決めるなどです。自由恋愛が推奨されるようになったのは最近のことです。

また、ヒトでも男女間で体格差はありますが、クジャクほど差があるわけではありません。淘汰圧が強くないのです。

ナンパ系の恋愛サイトで「アルファオス、いわゆるボス猿みたいなのがメスを総取りするんだから世の中弱肉強食でアルファ(集団内のトップ)を目指せ」と書いてあったりしますが、完全に間違いです。

生物の繁殖行動は単純ではありません。同性間競争で負けた個体でも競争以外の代替戦略があるんですよね。たとえば同性間競争で負けたイカのオスはメスになりすましてメスに近づいたりします。

セクハラ男やヤリモク男は原始時代では適応

ヒトのハンディキャップ原理

いよいよ本題です。ヒトの恋愛においてもハンディキャップ原理が働いてると考えられます。

騙す人とそうでない人がいて、騙す人が楽にフェイクすることで一方的に利益を享受していたら社会は崩壊します。社会は崩壊してませんし、騙す人ばかりでもありません。

一般的に男性より女性の方が力が弱く、そのため立場が弱くなる場合があります。性暴力の被害にあったり、ヤリ逃げされたりです。女性は誘惑や搾取から身を守るために、その人が誠実かどうかを見極めます。

男性に比べると、あいまいなシグナルを発信し、またフェイクを見極める能力が高いです。

では、誠実な男性が相手に「自分は騙すつもりがない」を伝えるにはどうしたらよいのでしょうか?

ここでハンディキャップ原理です。情報伝達行動にコスト(負担)がかかってるかどうか、その伝達行動が正直かどうかを判断するのです。

つまり、大変な労力がかかっていること自体が正直さの証明になります。